2011年1月11日火曜日

英国メイドの世界にみるアンティーク雑貨

アンティークの定義は100年以上を経過したもの、ということになっている。ただ年代的に古いからアンティークか、というとそうでもない。

イギリスがいまに至るまでアンティーク雑貨の宝庫となっているのは、およそ100年前までが、ちょうどイギリス帝国の絶頂期「ビクトリア朝」(1837-1901年)であったことによる。豊かな社会に支えられ、新しい文化とそれを象徴するクオリティの高い「もの」を、いまの時代にいたるまで、光を失うことなく数多く残すことができた。帝国の絶頂期に生まれたクオリティを持った「もの」達こそ、アンティークと呼ぶにふさわしい。

ビクトリア王朝がいかに多くのものと文化を生み出し、それを伝えてきたか。
その一端を644ページの大作「英国メイドの世界」(久我真樹著、講談社)が伝えている。

著者は、もともとはIT系の仕事をされ、大学卒業後から英国使用人を研究する同人活動を始め、その集大成としてこの本がなったらしい。
内容は広範にわたり丁寧で、ビクトリア朝の日常生活を知る上でも、大変興味深い。

こよなくアンティークのお店で、ヨーロッパのアンティークやビンテージの「もの」達に触れていると、それが生活のなかで、どのように使われ、愛されてきたのか、ということに自然と思いが広がる。その生活を思い描くことは、私にとっての秘かな楽しみでもある。

さて、「英国メイドの世界」では、アンティークな「もの」達が、どのような人々の手で磨かれ、飾られ、そして日常の一コマになっていったか、具体的に思い描けるよう、豊富な図版と丁寧な解説が施されている。

たとえば、「執事」の項には
家族がロンドンの家に(たぶん夏の家から)戻ると、応接間にあった装飾品(アンティークな「もの」たち)がすべて備え付けの戸棚にしまわれていたので、女主人が「あけて出してください」、というと執事は「鍵をなくしました」という。そぶりがおかしいので大工を呼び戸棚を壊すと、なかは空。執事は質札の山を見せ犯行を自白。
などとある。

夏の別荘に住みついたアンティークな「もの」達が、冬は主人抜きの居間でくつろいだり、時には執事に袋に詰め込まれ質屋さんの棚の中に納まったり、スリルと冒険のある物語へと連なるこのようなエピソードが「英国メイドの世界」には満載。アンティーク、ビンテージ、コレクタブル愛好の方にお勧めの一冊です。
                            written byこよなくアンティークスタッフ草深

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